2016/12/30

地テシ:084 「人喰いの大鷲トリコ」と「The Witness」そのいち

さて、展覧会関係の話が続いてしまいましたので、ここらでちょいとゲームの話でも。ていうか2016年のまとめはしないのかよ! いや、したいんですけど、撮りためた面白写真も大量なんですけど、今はやはりこのゲームの話をせねばなりますまい!
それは! もちろん「人喰いの大鷲トリコ」!

私が「ICO」と「ワンダと巨像」が好きだというのはことあるごとに言ったり書いたりしてきましたし、実際にこの二つのゲームにはファンが数多くいます。そのクリエイター・上田文人さんの最新作となればプレイせずにはいられません。ていうかプレイしました。そしてやっとクリアしました!

思い起こせば7年前。2009年のE3でこの作品のビジュアルが発表され、世のゲーム好きが歓喜しました。もちろん私も歓喜しました。それから紆余曲折があり、発売日が延期されたりして、やっとこの12/6に発売されたのです! そりゃ買うでしょ! プレイするでしょ!

改めてまとめましょう。「ICO」は2001年にPS2で発売されたアクションアドベンチャー。謎の古城に閉じ込められた少年イコが、途中で出逢ったヨルダという少女と共に古城を抜け出すまでをプレイします。アクションではありますが、このゲームのポイントは謎解きにあります。行く手を阻む扉や段差を、スイッチを操作したりパズルのような仕掛けを解きながら進んでいきます。この仕掛けが難しい!
序盤こそ簡単な謎ですが、進むにつれて難易度が上がっていきます。文字情報のヒントは一切無く、交わされる会話も架空の言語と象形文字のような字幕ですから全く判りません。ヒントが出るとしても、ヨルダが怪しい場所を指し示すだけ。とにかく謎を解かない限り先には進めませんから、力業ではクリアできないんですよ。こっちのスイッチを押しながらあっちのスイッチを押すとか、動かせる足場を移動させて高いところに登るとか、バラエティ豊かな謎がイコとヨルダを(つまりプレイヤーを)悩ませます。
当時は攻略情報をネットで見るという発想がなかったので、謎に詰まると数日に渡って進めないという状況になります。そのぶん、数日悩んで謎が解けて先に進めた時には堪らない快感がありました。なるほど、そう解くのか! という正解に辿り着くまでは試行錯誤の連続です。こう書くと辛いだけのような気もしますが、当時は本当に苦しみながら楽しんでいたのです。
時には影のような煙のような敵キャラクターがワラワラと湧いてヨルダを連れ去ろうと寄ってきまして、それを木の棒で蹴散らしながらヨルダの手を引いて逃げます。この「手を繋ぐ」というシステムが今作のキモ。ヨルダは自発的には動かず攻撃能力もありませんから、手を繋いで連れて行くしかないのです。手を繋ぐにはR1ボタンを押し続けるしかなく、このR1ボタンを押しながら走ったり蹴散らしたりしなくてはならないという操作システムがイコとヨルダの絆を感じさせるものでした。
この練りに練られたゲームデザインが絶妙に作用して、私にとって、そして世のゲームファンにとって忘れられない作品となったのです。


「ワンダと巨像」も同じスタッフが手がけた、PS2で2005年に発売されたゲーム。こちらも同様のアクションアドベンチャーですが、ちょっと趣が違います。
主人公はワンダという青年。ワンダは愛馬アグロと共に広大なフィールドを駆け回り、その各所に点在する巨像を斃して廻ります。巨像は名前の通り巨大な石像で、それぞれ人型や動物型の異なった姿をしています。その全てに弱点があり、ワンダがその巨像によじ登って弱点を攻撃すればそのステージのクリアとなります。
今作のキモがこの「よじ登る」という動作。巨像の表面には毛のような草のようなものが生えており、R1ボタンを押すことによってその毛を掴みよじ登ることができます。つまりR1ボタンを押しながら各種アクションをしていくのですが、この点がICOとの共通点。また、巨像に辿り着くまでに仕掛けを解いていかなければならないのも共通点です。
どうやって巨像に取り付くのか、どうやって弱点に辿り着くのか。ICOと同様に独特の美しく静謐な世界の中で冒険は紡ぎ出されます。二作ともイベントシーン以外にBGMはほとんど無く、基本的に風音などの効果音のみで構成されます。これがまた世界観の構築に一役買っているのです。

二作ともプラットフォームはPS2でしたが、2011年にはPS3用にリメイクされています。絵が綺麗になったり3Dに対応したりしていますが、ゲームシステムは全く同じ。謎解きの難易度も同じで、再プレイしても色あせない魅力が詰まっていました。

そして「ICO」から15年、「ワンダと巨像」から11年、リメイクから5年。いよいよ上田文人最新作である「人喰い大鷲のトリコ」が発売されたのですよ! プレイしたよ! クリアしたよ!


といったところで長くなっちゃったので、「トリコ」については次回。ていうか、例によって年内にまとめられるのか?

2016/12/28

地テシ:083 「東京凸凹地形」展

前回は「It's a Sony展」と「大ラジカセ展」の二つをご紹介しましたので、展覧会繋がりでもう一つご紹介しておきましょう。

それは東京都立中央図書館にて現在開催されております「東京凸凹地形 -地形から見た東京の今昔-」という、いかにも私の趣味にピッタリの企画展示。図書館ならではの膨大な書籍資料を駆使して、東京の凸凹について詳しく説明しています。

近年、「タモリ倶楽部」や「ブラタモリ」などのテレビ番組や、東京スリバチ学会・大阪高低差学会などのフィールドワーク団体のお陰で、都市と凸凹の関係界隈が大変に盛り上がっております。関連書籍なども数多く出版されており、もちろん私の大好物なのですが、ついに東京都までが動き出しました。それがこの展覧会です。

都立中央図書館ですから東京に関する書籍なら他の追随を許しません。その膨大な資料の中から東京の凸凹に関する書籍を並べて、参考になるページには付箋も貼って、しかも手に取って自由に閲覧可能なのです。ただ、困ったことに、私はそのほとんどの書籍(官公庁の技術資料を除く)を持っていたんです。持ってるのかよ! 困るのかよ! 困んないだろ!
しかし、これだけの資料がズラッと並んでいるのは壮観でした。書籍はテーマごとに分類され、さらに古地図や古写真もパネル展示されています。解説も丁寧で、パネル展示だけ見ていても充分に面白いのですが、気になるテーマがあればその下のテーブルに置いてある書籍を読むと更に深く掘り下げられるようになっています。テーブルと椅子もたくさんあるのでじっくり腰を落ち着けて読むことができます。一冊ずつしかないから、誰かが読んでいたらその資料は読めないけどね。

そんな中、最も私の注意を引いたのが、会場に入ってすぐ左にドーンと掲げられている、展示の一番始めを飾る大きな標高地図。東京地図研究社作成の「東京全図」なのですが、横に長い東京都を納めるためにかなり引いた構図でして、お陰で武蔵野台地の古多摩川扇状地を広く見ることができます。
ここで目を引くのが、扇状地に中にポツンと島状に取り残された狭山丘陵。人工湖である狭山湖と多摩湖がある、トトロの森の愛称で知られる里山ですが、ココだけポツンと標高が高く、かつデコボコしているんですよね。
これは関東平野を形作る古多摩川の流路が、北東経由(現在の入間川、荒川方面)から南東経由(現在の多摩川)へと変化した時に削り残された部分のようです。なので島状に残っているんですね。
当展覧会は写真がNGだったのでお見せできませんが、iPhoneアプリの「スーパー地形」から似たような標高図を取り出してみました(この「スーパー地形」というアプリもスグレモノなので、いずれちゃんとご紹介したいと思います)。

このセンター部分が狭山丘陵。周りが放射状に平らなのにココだけ盛り上がってるでしょ。狭山丘陵に寄ってみるとこうなります。

人工湖がハッキリ判ります。確かに「削り残された」って感じがするでしょ。

このような地表の高さを色分けとデコボコとで表現した標高図は私の大好物ですが、東京に関してはこちらの都区部を中心としたデジタル標高図が有名でして、この印象が強すぎて東京都全図の方は忘れがちなのよ。だから、この展覧会でこの標高図を見た時に、特徴的な狭山丘陵が印象的だったって話。丁度地図のど真ん中だしね。


とはいえ、この展覧会の目玉はなんといっても立体地図「東京の微地形模型」が展示され、しかも話題となったプロジェクションマッピングまで行われているコトでしょう。このblogでも以前詳しくレポートしました。
http://awanemacoto.blogspot.jp/2012/07/2_15.html

「東京凸凹地形」展は撮影禁止だったのですが、この模型に関してだけは静止画のみ撮影可でした。

当時、期間限定で展示されていたあの立体地図をもう一度見るコトができるのです、マッピング映像つきで! これは気になるでしょう。2012年に見損ねた方はぜひ一度ご覧下さいませ。

こちらの「東京凸凹地形」展は2/12まで。ちょっと面白い仕掛けのクリアファイルも貰えちゃうよ。年末年始は改装も含めて休館日が多いのでお気を付けて。スケジュールの確認はこちらから。
http://www.library.metro.tokyo.jp/tabid/2287/Default.aspx?itemid=1436

会場となる都立中央図書館は有栖川宮記念公園の北東端。最寄り駅は東京メトロ広尾駅ですが傾斜地にあるので結構な上り坂になります。でも、この上り坂を登るという行為が既に地形に考察を巡らせるよいキッカケとなりますので、ちょっとした散策気分でお出かけ下さい。この辺りの地形も面白くていいんですよ。

2016/12/25

地テシ:082 「It's a Sony展」と「大ラジカセ展」

「VBB」が終わってはや二ヶ月。今は観劇月間の粟根です。先日もリリパットアーミーII「天獄界〜哀しき金糸鳥」を見に行って、KUTO-10次回公演に出演するうえだひろしくんと長橋遼也くんと制作の岡本康子さんに誤植について平謝りしてきた粟根です。ホントすみませんでした。

さあ、そんなワケでね。2016年も終わろうとしております。今年は新感線の二本だけに出演という少なさでしたが、それぞれが長かったからね。それなりに大変な一年でした。そんな一年をざっくり振り返っておきましょうか。

まずは最近行った、家電関係というか、ラジカセ関係の展覧会を二つご紹介いたしましょう。

一つは「It's a Sony展」。銀座にあります、螺旋状に構成されている五十年の歴史あるソニービルが解体されるにあたり、そのビル全体を使ってソニー製品の歴史が見られるという展覧会です。

http://www.sonybuilding.jp/ginzasonypark/event/


向かいにあります新築成った東急プラザ銀座から、展覧会広告幕の掛かるソニービルを撮ってみました。(そう、このガラス張りの東急プラザも江戸切子がモチーフとなっていて美しいですよね)

解体されちゃうので、ビル自体も展示の一部です。壁や柱の囲いも剥がされ、こんな風に建設当時の壁面が出てきてしまっているのも面白い。


ソニーが創業して70年。常に革新的で刺激的な製品を作ってきたソニーの歴史が体感できる展覧会です。膨大な製品の中から選ばれたエポックな製品がズラッと並びます。しかも写真OKなんですから嬉しい限り。

思えば、私の音楽生活は常にソニーと共にありました。生まれて初めて買ったラジカセがソニー、初めてのシステムコンポがソニー、初めての携帯音楽プレーヤーはもちろんウォークマンやディスクマン。家にはソニーのトリニトロンテレビがありました。そういえば初めてのデジカメもサイバーショットでしたし、劇団で初めて買ったビデオカメラはデジタルハンディカム。ゲーム機のPlayStationシリーズはもちろん全機持っています。ソニーづくし。

音楽以外にも、生活とは切り離せないAV機器としてソニーは常に私に周りに存在し続けているのです。まあ、正直な所を言えばテレビのWEGA、BRAVIAとかビデオのベータマックスとかAIBOとかVAIOとかは使っていないんですけどね。それでもソニー製品にはお世話になりっぱなしなんです。


ソニーのカセットテープも忘れられませんね。このシンプルなデザイン。一番多く使ったのは緑のパッケージのC90でした。当時のLPアルバム一枚が大体45分だったんです。両面使って二枚のアルバムが録音できました。
私が演劇を始めた頃、音効さんが使っていたのは主にオープンリールテープレコーダーでしたが、そのテープとして人気だったのもソニーとマクセル。安くて信頼できるのがこの二つのブランドでした。プロ器材としても信頼が高かったというコトです。

ソニーが凄いなと思うのは、プロユースとカジュアルユースが同じ地平に立っていたこと。プロが仕事で使う信頼性の高い製品と、コンシューマーが日常で使う製品とが同じレベルで混在したことだと思うのです。この展覧会でも、創業当時のとんがった新聞広告が展示されていましたが、消費者が面白がれてビックリできる製品と、シビアなプロが使える製品とが分け隔て無く商品化されていたのです。
とにかく製品に「日本初」とか「世界初」とかが多い。テープレコーダーとかトランジスタラジオとかウォークマンとか、エポックな製品を数多く作っています。それと同時に、放送局が使うようなプロ器材の名機も数多く輩出しています。
ビデオテープ時代のテレビ局で使われていたのはベータマックスですし、現在も使われているCD規格もソニーとフィリップスの共同規格です。CDが直径12cmに決まったのは、当時ソニー副社長の大賀典雄さんがベートーヴェンの第九が収録できるという理由で12cmを主張したのが決め手だというのも有名な話。


こちらは「カセットデンスケ」という愛称のテープレコーダー。そもそも街頭録音用のオープンリールレコーダーの名機「デンスケ」をソニーが出し、それが各放送局で愛用され、そのカセットテープ版としてこのカセットデンスケがリリースされ、当時の生録(なまろく)ブーム(蒸気機関車の音とかを撮ったりね)も相まって爆発的に売れたプロ用製品です。昔の劇団☆新感線の稽古場にもコレがあり、コレでヘビメタを流しながら稽古していたことを思い出します。テープ部分のフタは取れてなくなっちゃってたけどね。当時、音楽を流すのは若手劇団員の仕事だったのよ。

ソニービルの螺旋状のフロアを登りながらそういった色々なコトを思い出したってコトさ。世代によって思い出は違うでしょうが、やっぱりソニーって偉大なメーカーだなあとか思いました。
「It's a Sony展」は2017年2月12日までがPart-1。その後、展示を変えてPart-2が3月31日まで。でも、ソニー製品が体系的に展示されるのはPart-1の方だと思うので、ソニー製品になんらかの思い入れのある方は是非2月中旬までに行ってみて下さい。いろんなグッズも売ってるよ。ガチャガチャとかも。


もう一つの展覧会は池袋パルコ本館のパルコミュージアムで開催されている「大ラジカセ展」。ラジカセコレクターとして有名な松崎順一さんが監修する、100台のビンテージラジカセが大集合する展覧会です。

http://dairadicasseten.haction.co.jp/


こちらは各社のラジカセに絞った展覧会。「日本発アナログ合体家電」としてのラジカセをドカッと集めて並べています。松崎さんといえば、名著「ラジカセのデザイン!」の著者であり、ラジカセ愛に溢れた方。その松崎さんのコレクションが狭い会場に所狭しと並んでいます。狭いんだから所が狭いのは当然ですが。

ラジカセというのは言うまでも無く「ラジオとカセットテープレコーダー」が合体した家電。発展の内に、二個のカセットを再生できるダブルカセットとか、CDと合体したCDラジカセとか、テレビと合体したラテカセとか、まあ色々ととんでもない進化を遂げますが、それらの中から代表的な製品が集められており、我々カセット世代にとってはたまらない展覧会となっています。

進化の過程では、こんな製品も出てきました。


なにこれ? 私もこんな製品があることを知りませんでしたが、ラジカセとキーボードが合体しちゃったみたいですね。右上のソニー製品も、パッド型の音源が搭載されています。当時、「宅録(たくろく)」といわれた自宅音楽製作が流行っていたので、それ用の製品でしょう。今のDTM(Desk Top Music)のハシリともいえます。

ラジカセだけではなく、カセットテープ関係の展示も充実しており、80年代に流行した「カセットマガジン」のコーナーもあります。カセットマガジンとは、雑誌にカセットテープが付随したモノ。当時最先端の音楽を収録したカセットテープと、流行のライフスタイルを解説した雑誌がセットになっていました。これがもうオシャレでねえ。テクノポップと時を同じゅうして流行最先端でした。
そのコーナにはこんな商品も陳列されていました。


当時、富士カセットのCMにYellow Magic Orchestraが起用され、「テクノポリス」という名曲に乗せたCFが作られました。そのキャンペーンで抽選で当たるカセットマガジンがこちらだったんです。抽選だから非売品。簡単には手に入らないシロモノでしたから憧れでしたねえ。この宅録器材のようなシンセサイザーのようなパッケージも含めてマニア垂涎の品でしたが、入手できずに結局中身は判らずじまい。このパッケージに見える部分が実は本でして、真ん中部分だけがくり抜かれているというのもオシャレ要素です。

「大ラジカセ展」は12月27日まで。あ、もう終わるじゃん! 急がないと! ラジカセ世代にはキュンと来る展覧会ですので、是非終わるまでに行ってみて下さいませ。

2016/12/10

[お詫び] プロジェクトKUTO-10「あたらしいなみ」チラシの誤植について

皆様お久しぶりです。また前回の更新から四ヶ月も空いてしまって申し訳ありません。近いうちに今年のまとめなどをお届けしたいと思います。

しかし、本日は皆様へのお詫びと訂正です。

毎公演チラシを作らせて頂いております工藤俊作プロデュース プロジェクトKUTO-10。

http://plaza.rakuten.co.jp/kuto10/

次回公演「あたらしいなみ」のチラシも作らせて頂きました。既に劇場での配布も始まっております。
しかし、そのチラシにおきまして大きな誤植がございます。

作のサカイヒロトさまの所属団体が、おもてうら共に「WE'RE」と表記されておりますが、正しくは「WI'RE」です。
作家の所属名を間違えるというあってはならない誤植なのですが、サカイさまからもお許し頂き、刷り直しをせずにこのまま配布されることとなりました。

サカイさま、劇団の皆様、また今公演のスタッフキャストの皆様には、大変ご迷惑をお掛けしてしまいました。
ここに深くお詫び申し上げる次第です。申し訳ありません。

今までにも何度か誤植をしたことはありますが、ここまで大きなミスは初めてです。これから公演までの約三ヶ月、このチラシを多くの劇場で見かける事になると思いますが、サカイヒロトさまの所属は正しくは「WI'RE」です。
改めまして、お詫びと訂正を申し上げます。

劇団側の訂正記事リンクです。
http://plaza.rakuten.co.jp/kuto10/diary/201612090000/

以下に、修整されたチラシデータを貼付しておきます。
この公演が無事に成功されますようお祈り申し上げます。




2016/08/04

地テシ:081 「VBB」直前ですが「乱鶯」の話を

ああ、すみません。例によってまた長期間開いてしまいました。大丈夫です、生きています。今、長野県は上田市におります。いやあ、いいよね、盆地。山に囲まれてて。暑いけど。川が流れていて。暑いけど。

そんなこんなで気がついたら「VBB」のプレビュー初日が目前です。なんだかワサワサした作品になりそうです。上手く伝わっていないかもしれませんが、なんだかワサワサしそうなんです。どうぞお楽しみに。


で、その前に「乱鶯」についてですよ。もうずいぶんと前の話になってしまいましたが、「VBB」の前にザックリとまとめておきましょう。楽しかったけど色々と大変だったなあとか思い出しながらね。
「乱鶯」は初めての倉持裕脚本ということで、いつもと違うけど面白かったとか、いつもと違って物足りなかったとか、まあ判りやすく賛否両論でございましたが、まあ我々は楽しく過ごさせて頂きましたよ。

ご覧頂いた方ならお判りだと思いますが、私は序盤で死んでしまって、そこから先は幽霊での出演となりました。いやあ、これが中々大変だったのですよ。
幽霊での出演となればやはり「スッポン」での登場となるワケですが、それについてはこちらの連載「UFB:未確認ヒコー舞台」をお読み下さい。

http://blog.livedoor.jp/nikkann-awane/archives/47685858.html

ここでも書いておりますが、幽霊への変身が、まあ大変だったのですよ! 人間姿(けっこう病弱)は一幕二景の途中で退場して、次の幽霊(なんだか陽気)の登場は一幕五景。そこそこ時間はあります。あるんですが、やることが多い!

ハケましたら、そのまま衣裳部屋へ移動しながら脱ぎ始めます。片襷とか前掛けを外しながらね。衣裳部屋で衣裳を脱いで、そのまま床山部屋へ行って、カツラを外し、さらにマイクを一旦外します。そうしないと一枚目の羽二重が取れないからね。そう、今回は羽二重を二重にしているのです。羽二重についてはこちらをご参照下さい。

http://blog.livedoor.jp/nikkann-awane/archives/25512664.html

なぜ羽二重を二重にしているかというと、顔色が大幅に変わるから。人間時には病人でちょっと白めとはいえ、まあ肌色ですね。しかし、幽霊になるとほぼ真っ白ですから、白い羽二重も用意して頂いていたのです。で、その二種類を取り替えるのですが、その下には髪を束ねる用のベースの羽二重をしているのね。なので今回は羽二重を三枚用意して頂きました。ベース、肌色、白色とね。

そんなワケで、出番が終わったら即、衣裳もカツラもマイクも肌色の羽二重も取りまして、それからメイク替えです。顔はまだらに白くして、ゾンビのようなメイクをします。さらに、幽霊ですから手も腕も足も白く塗ります。メイクさんに白いファンデーションを用意して頂いたのですが、その減りが早い早い! 一週間に一個使い切るようなペースです。
ある程度メイクができたら、また床山部屋に行って白い羽二重を締めて頂き、衣裳部屋で幽霊の衣裳を着せて頂き、音響さんにお願いしてマイクを付け直して頂き、また床山部屋に戻って幽霊のザンバラカツラを載せて頂き、ほんでまた自分の楽屋に戻ってメイクの続きをするんですが、そうこうしている間に出番の目安となるセリフが聞こえるから、慌ててソデに走ります。これが一幕中盤から後半の私の流れ。ほら、結構忙しいでしょ。

だもんで、一二幕の間の休憩時間にメイクを仕上げます。もうちょっと丁寧にゾンビになるために。いや、ゾンビではないんだけど。幽霊なんだけど。まあ、できるだけ怖ろしげな容貌を目指しておりました。
二幕の最初の出番はスッポンから迫り上がってくるところ。なので、客席がホントに近いので、すぐ側のお客様が私の様相に驚いて悲鳴を上げたりすると大満足です。まあ、その後すぐに笑われるんですけどね。

あと、手を白く塗っているとホント大変ね。触るモノが全部白くなっちゃう。メイク道具はしょうがないとして、台本とかMacとかiPhoneとかiPadとか、楽屋で触るモノ全てが白くなっちゃうんですよ。今回、「VBB」の為に劇場に入ってメイク道具を並べていたら、なんだか全部白っぽくなっていたんで「乱鶯」のコトを思い出したってワケさ。ま、いつか落ちるさ、この白も。


というワケで、まもなく「VBB」が始まります。「乱鶯」とは全く違う、なんだかワサワサした舞台。平安時代から千年生きている吸血鬼がヴィジュアル系バンドのヴォーカルをしながら愛するかぐや姫の生まれ変わりを探すお話。なんだそれ! そうなんです。皆様には「なんだコレ!」と思いながらご鑑賞頂けますよう、スタッフキャスト一同、真面目にバカをしながらお待ちしております。

2016/03/25

地テシ:080 KUTO-10「骨から星へ」

気がついたらもう三月。気がついたらもう「乱鶯」の東京公演が始まっていて、気がついたらもう「乱鶯」東京公演も残り少なくなってきています。って気がつくの遅いな、俺。ええと、月日が経つのは速いものです。
「乱鶯」は「いのうえ歌舞伎《黒》」というコトでいつもとちょっと違う新感線でして、ネットでの評判をチラッと見たりすると「いつもとちょっと違って新鮮だ」という意見があったり「いつもとちょっと違って物足りない」という意見があったり、まあ要するに賛否両論ではありますが、やっている我々はとても楽しいのです。
古田くんがセンターで、劇団員もほぼ総出演となるいのうえ歌舞伎はおそらく当分は見られないと思います。残りのステージも少なくなってきております。気になっている方は、是非!

そんな公演中の私ではありますが、チラシを作らせて頂いた工藤俊作プロデュース プロジェクトKUTO-10「骨から星へ」を見に行って参りました。
この舞台、久保田浩さんと座長である工藤俊作さんが90分間ほぼ出突っ張りなのね。二人とも私より一つ年下の五十歳。劇中にも年齢に関する言及があり、ああ、彼らももう五十歳かぁとか思いましてね。二人ともかれこれ三十年くらいのつきあいで若い頃から知っているんですが、この二人の佇まいが実に良いんですよ。

そういえば、こんな素敵な大人たちも、かつて若い頃は二人とも「狂気の俳優」と呼ばれていたことを思い出しました。
トシさん(工藤さん)は舞台上のみならず私生活でも奇声を発する怪人でして、盟友である古田くんやじゅんさんからも恐れられていたほどです。
クボッティ(久保田さん)は当たり役である「羽曳野の伊藤」を初めとした「冷静な情緒不安定者」に定評があり、私生活でもどうにもおかしな人でした。

そんな狂気の俳優二人が、実に味のある大人になっていて、なんとも感慨深い気分になった公演でした。特にクボッティの巧さには改めて驚かされました。二人ともなんだか良い歳の取り方をしているなあって。

ちょっと大人な「いのうえ歌舞伎《黒》」を上演している我々としても、まあ歳を取るのも悪いコトじゃないんだなあとか思いながら見ていましたよ。そして、懐かしい関西出身の演劇人たち(先輩とか同輩とか後輩とか)ともたくさん会えて嬉しい一日でした。

「骨から星へ」は、京王井の頭線 駒場東大前駅から徒歩三分、こまばアゴラ劇場にて3/27まで。宣伝美術を担当させて頂いた縁もあって、ちょっと宣伝させて頂きました。チケットはまだまだあるそうですので、どうぞよろしくお願いいたします。

2016/01/06

地テシ:079 2016年と中島清之展

新年明けましておめでとうございます。2016年! 今年もよろしくお願いいたします。今年の一発目は2016年劇団☆新感線春興行 いのうえ歌舞伎《黒》BLACK「乱鶯」ですが、秋公演として宮藤官九郎さんが書くと発表されちゃいましたので、春と秋は新感線でよろしくお願いいたします!


毎年、可能ならばゲームしながらの年越しを心がけておりまして、没頭している内に気がついたら年を越していたというのが理想です。今年も「Fallout 4」を夢中でプレイしている内に気がついたら年を越していました。幸先の良い新年です。
以前にも書きましたREGZAを買ってからタイムシフト視聴が基本になっている私ですので、年末年始の特番もタイムシフトで観ています。今のところやっと年末特番を消化して、やっと新春特番に入りました。もう世間は新年気分は抜け始めているのに、私だけまだ新春気分です。

そんな新春気分の私ですが、新春早々、急に思い立って美術展に行ってきました。ネットで見つけて妙に気になった「横浜発 おもしろい画家:中島清之ー日本画の迷宮」(横浜美術館)です。
















あんまり日本画は見ないのですが、ちょっとコレは気になっちゃたのよ。なにやら面白そう!

というワケで新年から横浜に行ってきちゃいました。

中島清之とかいて「なかじまきよし」と読むらしいのですが、大正から昭和に掛けての日本画の大家でして、東京芸大の講師として教鞭を執ったこともある重鎮です。重鎮らしいのですが、この展覧会のタイトルである「おもしろい画家」というのが気になっちゃったんですね。

気になって行ってみたのが正解でした。確かに面白い。何て言うか、作風が固定していないんだよね。日本画をベースとしながら、洋画とか抽象画とかアンフォルメルとか、色んなムーブメントを採り入れて、どんどん作風が変わっていくんですよ。しかも、一枚の作品の中にそれが混ざっちゃう。
日本画の特徴である、輪郭線を描いちゃうとか遠近法を使わないとか暈かしを使うとか、そういう手法と洋画の手法を混ぜちゃう。物凄く精密に描いてある部分があるかと思いきや、物凄くデフォルメされた部分が一枚の中にあったりします。
着物の柄や生物の皮膚模様を精密に描くのに背景がモヤッとしてるんだとか、一度描いた精密な背景を塗りつぶしちゃうんだとか、そこに金箔貼っちゃうんだとか、輪郭をピンクで描いちゃうんだとか、その角度とこの角度が混在しちゃうんだとか、コレはもうキュビズムなんじゃないかとか、アクリル画みたいに塗りつぶしちゃうんだとか、そこしか描かないんだとか、漫画みたいな表現するんだとか、なんだかもう何でもアリな作風なんですよ。

初期のいかにも日本画な作品も良いのですが、後期の大判の作品、例えば一面に笹の葉を描いた「緑扇」なんかは細密な日本画とミニマル・アートが融合したような作風で見応えがあります。
他にも見所が多くて、実に刺激的な展覧会でした。1/11には終わっちゃうから、もしお時間がございましたら是非。

そして、ついでのようですが、同時に開催している「横浜美術館コレクション展」の「大正・昭和の横浜から」には多くの美しい陶器が展示されているのですが、その中の宮川香山による「記念杯(一対)」という杯がむっちゃ可愛い! 杯を白兎と茶兎(だか鹿だか狸だか)に見立てた作品なのですが、コレを紹介したくてネットを探しまくっても写真がどこにもないんですよ。こんなにカワイイのに! なので、是非とも実物を見て頂きたいのですよ。

よろしければ、新年には横浜に行ってみてくださいませ。じゃ、今年もよろしくです〜!